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現行林業と自伐型林業の比較Part-5

現行林業と自伐型林業の比較Part-5です。
 前回は、所有と経営の分離政策の問題点を挙げましたが、今回は施業手法です。現行林業の予定調和は「50年皆伐施業」です。約3千本を植林して、下刈りを繰り返し、20年頃除伐をおこない、30~40年目で間伐し、50年で皆伐(主伐)して、再造林するという循環です。高校の教科書でも映画「WoodJob」でもそういう説明をしていると思います。
 この手法の最大の問題点は、現行の材価では採算が合わず、成り立たないということです。山林所有者が森林組合に委託し主伐(皆伐)すると、山林所有者の収入は平均約50万円/haです。最近はさらに下がっているようです。その後、再造林すると約100万円/haかかります。早くも50万円の赤字になります。その後も下草刈りを7年程度おこなわなければならず、費用が積み上がります。再造林にかかる費用は250万円程度かかるとされています。その原資が50万円なのですから、全く話にならない状況です。とっくに破綻した手法と言えます。過去、国有林や各県の県行造林・林業公社等が大赤字になり、大山林所有者が破たんした主原因はこれです。再造林するには再造林費用を全て補助金で見てくれないとできないのです。再造林できても次に下刈り費用、シカ被害と難題続きです。つまり現状の木材価格下では、この手法は持続的(循環的)な林業はできないということです。しかし、森林・林業再生プランや現行林業政策もまだこの手法を変えていません。まだ全面的にこの手法を指示しているのですから、この学習能力のなさは極まっています。困ったものです。
 この面的な皆伐施業は、過去の経験上も林業と木材産業に大打撃を与えます。高知県東部では魚梁瀬(やなせ)杉の産地でした。吉野杉に匹敵する銘木でしたが、戦後の皆伐施業により、生産はほとんどなくなり保護地区が残るばかりです。戦後たくさん存在した林業者は全国各地へ移住し、製材業者は見る影もなく消え失せました。残った集落を襲ったのはハゲ山による土砂災害でした。これにより、山間集落は海辺の集落に集団移転し、山間地の村は消滅しました。皆伐施業がもたらした悲劇です。同じような地域が全国にも存在すると思います。今また、伐期が(50年を過ぎた)きたからと言って皆伐してしまえば、また同じことに繰り返しです。今回は再造林できない状況ですので、その地域の林業を消滅させてしまう可能性も高くなるでしょう。中山間地域の8~9割を占める山林が数十年使えなくなったその先には消滅自治体が待っていることでしょう。
 では一方の自伐型林業ではどうなるか。限られた山林から、毎年安定的な収入を得ていかなくてはいけないため、この皆伐施業はできません。択伐施業になります。択伐施業でも長期(最低100年以上で、可能であれば200年以上)を目指します。皆伐施業一辺倒の現行林業関係者は全く気付いてもないようですが、長年択伐を展開している人たちは当たり前なのですが「択伐マジック」という現象があります。自伐が採算の合う要因に低投資・低コストに加え、この択伐マジックが「儲かる」主要因となります。多間伐を7~10年ごとに繰り返し(間伐率は蓄積量の2割以下)、残った木を成長させながら面積当たりの価値を最大限に高めていく手法です。この際、多間伐を繰り返す故、本数は減っていくのですが、蓄積量は増えていきます。この増えていくことがミソなのです。これが木の生長量を利用するということです。材積が増えると同時に単価も上がるのです。たとえ単価が上がらなくても材積を増えるということは収入が増えるということです。例えば、奈良吉野の250年のスギの森では1haあたりの材積は1500m3もあります。この森は過去約20回の収入間伐おこなってきています。残った森の材積が1500m3ということです。50年生のスギだと300m3です。250年ということは50年皆伐を5回できます。5回の生産量は1500m3ということになります。吉野の残った森と同じ材積です。択伐施業では20回の間伐の生産量が50年皆伐の生産量より多いということです。おそらく3倍以上の生産量となるということです。当然、100年を超える木というのは単価も上がります。収入は10倍どころではなく、100倍に達するのでは思います。吉野では120年を超えると2割間伐の収入が、50年皆伐収入である約300万円を超えるようです。120年以降の間伐は常にこういう状況になるのです。実際に今年、100年生の山を2ha間伐(2割間伐)した人は約400万円の収入になっています。
 故に50年皆伐というのは、最も儲からない林業と言うことです。本当の木の生長は75年を過ぎてからだと植物学者が言っていたのを思い出します。木が幼少の時に伐ってしまっては、もったいないの一言です。択伐施業では収入が安定してくるのが80年を超えてからと経験者はよく言われます。50年皆伐はその前に伐ってしまうということですので儲からなくなるということです。自伐はこのようにして少ない面積で森の価値を上げながら収入を得、さらに次世代に引き継いでいくのです。80年以上の山を引き継がせてもらった若者たちは皆、喜んで林業をおこなっています。当然のことです。こういう森を創ることが後継者を残す最大の手法と言えます。

by ken_nakaji | 2015-12-15 09:06 | 森林
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